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『大空』巻頭言
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今年度も、全校児童の作文集『大空』が完成しました。275名の思いや考え、〝息づかい〟が感じられる文集です。その巻頭言として、拙文を載せましたのでよろしければお読みください。
「だれのために書いたのですか。」 ~おうちの人といっしょによんでください~
トキワ松学園小学校校長 栗林 明弘
作文を書くには紙が必要です。みなさんは原稿用紙という紙にこの文集『大空』の文章を書きましたね。その原稿用紙の文章を先生方がていねいに読まれて、まちがっている文字やぬけている文字を直したり、書きくわえたり、時には削ったりして文章全体を整えてくれているのも知っていることと思います。また、その前にきっと、先生が用意された下書きの用紙に、何を書こうか、どのように書こうか、文章の構想を練ったことでしょう。「ロイロノート」を使って構想を練った学年もありましたね。今、こうして文集としてみなさんの手元に美しい本の形としてあるのは、もちろん、印刷屋さんがみなさんの原稿を、きれいな紙に印刷してくれたからです。このように、今は、いろいろな場面で不自由なく使われているきれいな紙ですが、昔はこんなに簡単には手に入りませんでしたし、使うこともできませんでした。
時はさかのぼって、今から千二百年ほど前の平安時代に、京都のある一人の教養ある女性が一つの文章を何年かにわたって書きためました。『枕草子』という文章を書いた清少納言という女性です。この『枕草子』は中学生や高校生になると必ず目にする文章ですが、最近は小学校でも中学年や高学年の国語の教科書にもほんの一部が載っていることがあります。「春はあけぼの・・・。夏は夜・・・。秋は夕暮れ・・・。冬はつとめて(早朝)・・・。」春夏秋冬の美しさで始まるこの文章は、高校生以上であれば知らない人はないというくらい有名な文章です。この文章が書かれたのは、清少納言が身の回りの世話をし、年下でありながら敬意を強く持っていた、定子という身分の高い女性からいただいた白紙を束ねたものにでした。(ここらへんのことは、わかりにくいと思いますので、おうちの人に聞いてください。)たいへん貴重な美しい紙をいただいた清少納言は、定子を取りまく明るく美しい世界、雅な世界、幸せな世界を言葉で描き、これを定子にささげようとしたと言われています。
そのはじめの文章が「春はあけぼの・・・。」というわけです。
さて、みなさんの作文は、だれのために書いたのでしょうか。少しオーバーに言えば、だれに〝ささげる〟ために書かれたのでしょうか。「先生が書きましょうと言われたので書いただけだよ。」とか「毎年書くことになっているから。」とみなさんは言うかもしれません。が、きっかけはなににせよ、書いているうちにきっと「先生に読んでもらえるからがんばって書こう。」とか「おうちの人にほめてもらいたいな。」などと思って書いたことでしょう。あるいは、「自分のために書いた」という人もいるかもしれません。もちろん、どれでもいいのですが、初めはぼんやりとしていたものが、書いていくうちに、読んでくれる人や読んでもらいたい人を何となく頭に思い浮かべたり、その人を意識するようになったことと思います。実は、そのことが何かを書くときにとても大事なことなのです。なぜなら、そのことがはっきりしていると、文章の内容がいきいきとして、読む人の心を動かすものになるからです。清少納言の『枕草子』も、それだから読み継がれているのかもしれませんね。
あらためて、聞きます。みなさんはいったい、だれのためにこの作文を書いたのですか。 (令和二年十二月)
TEL 03-3713-8161(代) FAX 03-3713-8400